かたこと日記テキスト


006年元日、雪が深々と降る夜

俺はポンチョを身をまとい、外に出た。



寒さが身に染みる。

左手の傷が痛む。

少しでも寒さをしのぐようにポケットに手を入れる。


吐く息が白い。普段は気にしないが

こうして改めて見ると「俺は生きてる」ということを

実感してしまう。





氷点下の銀世界を歩いてみる。


足元からは「キュッキュッ」と雪が鳴る音が聞こえる。



昼間は騒がしく、車や人が行き交う所も

夜になると、ひっそり静まりかえる。

時々、通る車のエンジンとタイヤの音だけが聞こえてくる。


車が通らないとこの世に自分しかいないと錯覚してしまうくらいだ。



空からは雪がとめどなく降り注いでくる。

街灯に照らされる雪がとてもキレイだ。


ポケットから煙草を取り出し火を点ける。

ライターに灯る炎にも雪は舞い降りてくる。


煙草を肺に送りこんで

ゆっくり吐き出す。


先ほどと同じ白い息が出てくる。

人工の白い煙が。


煙草を吸いながら歩く。



「明日は積もるだろうな」

思わず、そんな独り言を呟いてしまった。









歩き続けると広い空き地に出た。


空き地の中央まで行き

立ち止まり、空を見上げた。





もちろん、星は出ていない。

目をこらせば、あの雲の向こう側にある

数千、数万、数億の星が見えるような気がした。



そして・・・・





俺は、あの空の下で暮らしている

みゆきの事を思い、北東方向の空を見上げた。












離れてから2年。別れてから1年が経つ。


「幸せに暮らしているだろうか?」


みゆきの事を思うと

そんな思いがまず、先にくる。




みゆきが聞いたら

「余計なお世話でーす」

とふざけた口調で言うだろうか?


それとも

「うん、幸せだよ」

とはにかみながら言うだろうか?



どちらも俺が付き合ってた頃のみゆきの姿だ。








俺は今でも思う。








2年前のあの時・・・・



俺の下した判断は正しかったのだろうか?







あの時、みゆきの住んでる街にとどまっていれば・・・・

強引にみゆきを連れてくれば・・・・





今頃・・・


結婚して、二人で仲良く暮らしていたかもしれない・・・・






1年前のあの時・・・・



俺の下した判断は正しかったのだろうか?





俺の住む街にみゆきを呼んでいれば・・・・・




今頃・・・・


二人、枕を並べて穏やかに眠っていたかもしれない・・・



人生に「たら」「れば」はいらない。

やり直しがきかないのが人生だ。

と思いながらも、思わずにいられない。







あの頃の俺は

全てから逃げ出したかったのかもしれない。

みゆき以外の全てから・・・・





結果的には、みゆきからも逃げてしまった。


みゆきの事を思うと後悔と罪悪感で胸がいっぱいになる。

幸せにしてやれなかったという後悔と罪悪感が・・・







果たして、俺はみゆきにとって

いい彼氏だったろうか?

やさしい彼氏だったろうか?


みゆきに愛情をたくさん、注いでやれただろうか?









答えは・・・・











たぶん・・・・









No





たくさん、悩ませてしまった。

たくさん、傷つけてしまった。

たくさん、泣かせてしまった。



たぶん、俺の見えない所でも



たくさん、たくさん・・・・泣いていたのだろう・・・・





みゆきはありったけの気持ちを俺にぶつけてきた。

ありったけの愛情を・・・・・
















俺は空を見上げるのをやめた。


目にたまっていた涙が、頬を伝ってくる。

20年ぶりに流す、本当の涙が流れ落ちる。



最後の最後でみゆきに泣かされてしまった。









今度、彼女ができたら・・・・・・










けして、逃げることなく

全てを真正面からがっしり受け止め

俺なりの最大の愛情で包みこんでやれる

そういう器の大きい男になろうと思う。



みゆきが聞いたら

「どうして、私の時にそう思わなかったのよ」

っと頬をふくらませるかもしれない。


そんな、みゆきの表情が浮かんでは・・・













消えた・・・













俺は、また銀世界の上を歩きだした。