かたこと日記テキスト


拝啓

天国の美香様、お元気ですか?

君に手紙を書くのは20年ぶりです。

返事は返ってこないのを承知で書いてます。



まずは、君に言いたいことがある。言い忘れてたことがある。

君と過ごした6ヶ月。すごく、楽しかったよ。

俺の人生の中で一番、楽しい時間でした。

本当にありがとう。



君が亡くなってから20数年が過ぎました。

世の中は変わりましたよ。

今は手紙の代わりにメールというものが存在します。

20年前にメールがあったら良かったなぁ

とよく思います。

君が札幌へ行った後も2人の距離は

もう少し、近いものだったかもしれません。

俺がパソコンに興味をもった時

君は「パソコンやるなんて暗いよ」と言ったね。

20年後の今では、パソコンは社会に普及して

誰もがパソコンをやってます。

多分、あなたには想像もつかないかもしれません。


君の住んでいた家も

数年前に立派なマンションになりました。

よく行った公園もなくなりました。

あのブランコも今はもうありません。



そうそう

君がこの世界からいなくなった後の話をしようか。


おばさんから手紙が届いたんだ。

それで君が亡くなったのを初めて知った。

最初は理解できなかった。というより理解したくなかった。

というのが本音かも。

手紙には、俺が大人になったら線香をあげにきてほしい。

という内容が書かれていた。

多分、おばさんは俺が子供だから君が亡くなったことを

すぐ忘れてしまうだろう。と思って書いたのだと思う。


残念ながら、俺は覚えていた。忘れられずにいた。

20歳の8月に俺は札幌に向かった。

君の家だ。

幸いなことに君が亡くなった後も

君の家族は引っ越してなかった。

きちんと電話でアポはとったよ。

君は礼儀とかそういうことにうるさかったからね。

電話にはおばさんが出たよ。懐かしい声だった。

君の家に行った日は暑かったのか涼しかったのか

もう覚えてはいない。

車で行ったよ。もちろん、おみやげ片手にね。

おばさんと妹の直ちゃんが出迎えてくれた。


7年ぶりに見るおばさんは少し老けていた。

小学生だった直ちゃんは、高校生になってたよ。

びっくりしたのを覚えている。

俺の知っている直ちゃんは

俺と美香が遊びに出かけようとすると

「一緒に行く」と泣き、おばさんに怒られてた直ちゃん。

女の子は女性になっていた。

「お兄ちゃん、いらっしゃい」

という声だけは昔のままだったけどね。

姉妹だけに直ちゃんは美香に似ていた。

高校生の美香に会えたようで

少し嬉しかった。

家に上がり、仏壇へ行き君へ線香をあげてきた。

やっと君に逢えた。

7年、遅れたけど許してくれ。

手を合わせながら、心の中で君に謝った覚えがある。

仏間には、君の写真が飾ってあった。笑顔の君。

真剣な表情も好きだったけど

やっぱり、君には笑顔が一番似合う。そう思ったわ。

その後、おばさんと直ちゃんと話しをした。

こっちへ来てからの美香の2年間の話。

美香が亡くなってからの5年間の話。

俺の7年間の話。

そして、事故の話・・・・


そういえば

直ちゃんにあれを見せられたよ。

俺と美香がやっていた交換日記のノート。

とっくに捨てたと思っていた4ヶ月分の交換日記。

俺は懐かしさと共にノートをじっくり見させてもらった。

ノートの中では2人の幼い文字がおどっていたよ。

美香の女らしさを微塵も感じさせない力強い文字。

なつかしかったよ。

帰り際、おばさんに言われたことがあったんだ。


「美香に会いにきてくれてありがとう。

私もすごく嬉しかったし、美香も喜んでると思う。

でもね、美香はもうこの世にいないの。

あなたは生きてるの。それを忘れないで欲しい。

もう、美香のことは忘れていいのよ」


というようなことを言われた。

直ちゃんにも同じようなことを言われた。

手を振って見送ってくれた2人。

もう、二度と会うことはないんだな。

と思った。


数日後の君の誕生日の日

君とよく遊びに行った砂浜で

君から貰った手紙を全て・・・

灰にした。


夏祭りで君から買ってもらった

指輪も海に投げた・・・

「もう美香のことは忘れていいのよ」

というおばさんの言葉に従っての行為だった。


でもね、後悔したよ。

燃やさなければよかった、投げなければよかった

と・・・・




おばさんの言葉を俺は守ることはできなかった。

お前を忘れることは俺には無理だったよ。

色んな女性と付き合ったけど

お前を忘れることは無理だった。



君に恨みつらみを言うつもりはないけど

あの15歳の冬から俺は抜け殻のようなものだったよ。

あの冬から、本当に、心の底から笑ったことは一度もない。

たぶん、今でも。


あの年から、俺は夏が嫌いになったよ。

君のいない夏が。

でもね、最近は

君のいない夏にも慣れてきたように思うんだ。

また、夏が好きになってきたんだ。

お祭りにもよく行くようになったよ。

浴衣姿の女性を見るとハッとするけどね。

君の姿を探してしまう自分に。




よく、2人で将来の話をしたのを覚えてますか?

中学生の頃、やけに大人に見えた高校生や社会人。

「どんな高校生になるんだろう?」

「どんな大人になるんだろう?」

そんなことをよく話したね。

いつも想像してたね。

俺の想像の世界では

大人になった俺の横にはいつもお前がいたよ。

でも、今、大人になった俺の横には君はいません。






君と一緒に人生を歩きたかった。

君と一緒に年をとっていきたかった。

君と一緒に四季の移り変わりを感じたかった。

君と一緒に色んな所に行きたかった。

君と一緒に感動を分かちあいたかった。


君と色んなことを話したかった。


そうなることが当たり前だと思っていた。

だけど、君は15歳のままなんだね。



今、俺の横には誰もいません。

もしかしたら、俺の横は君の指定席なのかもしれません。

もし、俺を心の底から笑わせてくれる

そんな女性に出会うことができたら

君は指定席をその女性に譲ってくれますか?

許してくれますか?


でもね、俺は最近思うんだ。

このまま、俺は一生、独り。

やっぱり、俺の横は君の指定席。

そんな気がしてなりません。



月日というのは恐ろしいもので

君との思い出も少しずつ

色褪せてきてます。

少しずつ、忘れていってます。

10代の頃は、毎日のように

君を想っていたのに

3日に1回・・・・

1週間に1回・・・・

1ヶ月に1回・・・・

今では、1年の内に数回しか

思い出さなくなってしまってます。

ごめんね。



美香に俺からお願いがあるんだ。

20年先か30年先かもっと遅くなるかもしれないけど

俺もいずれは君の所に行くんだ。うん。

その時は、君に迎えに来てほしい。

あの夏祭りで着てた浴衣姿で。

俺は『やっと逢えたね』と言うと思う。


そして・・・・


夏祭りの時みたいに

君と手をつないで歩きたいんだ。

   草々